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俺の死亡、僕の誕生

 投稿者:キャロル・F・シャーリア  投稿日:2009年 9月 6日(日)20時15分45秒
返信・引用
  うん?用事があるのに僕のところに来たの?物好きだね・・・。
それじゃあ、話でもしようか。御伽噺でも暇つぶしにはなると思うんだ。

昔々あるところに、”俺”という幼児がいました。3歳だった俺は、チチオヤからもハハオヤからも愛されていませんでした。俺に与えられたのは、毎日少しのパンとお水。それから、月光を反射し、ほのかに光る石をぶら下げたネックレス。チチオヤは浮気をし、ソレを見ていたハハオヤはトチ狂い、そして思いついたのです。自分も浮気をすれば良いと。お外に行けば中の良い、それはそれは良い家族。しかし、男の子はお外に行く時、どんなに暑い日でも長袖を着ていました。浮気に怒ったチチオヤも浮気に怒ったハハオヤも、俺に手を上げていたのです。俺は逃げませんでした。何故って?お外に興味がなかったからです。お外にいるより、お部屋で本をたくさん読んでいました。そして、俺はたくさんの知識を手に入れていったのです。昼間は本を読み、夜間はチチオヤとハハオヤに殴られました。

そんな日々が2年間続きました。チチオヤとハハオヤと俺は商店街に出かけました。チチオヤは言いました。
「ここで待っていろ。5時の鐘が鳴るときに迎えに来てやるから」
ハハオヤは言いました。
「ここで待っていてね。6時の鐘が鳴るときに迎えに来るから」

ふたりは、5時の鐘が鳴ろうと、6時の鐘が鳴ろうと、俺を迎えにはきませんでした。

俺は悲しみませんでした。オヤからの愛情を感じていなかった俺。当然無邪気に育つことはなかったのです。俺は歩き始めました。目的もなく目標もなく手段もなく方法もなく感情もなく感動もなく哀愁もなく悲哀もなく、歩き始めました。

可哀想に、捨てられてしまった俺は大変小さかったので、人ごみで、尻ポケットからお金を掏ることなんて朝飯前だったのです。屋台の食べ物をたくさん食べました。要らなくなったお財布は川に捨てました。不思議なことに、俺は人を騙すことや自分を偽ることに長けていたのです。そうして、俺は人間の汚いところを知っていきました。金と肉欲と愛憎。そんな吐き気のするような世界を生きていきました。
その胸にはいつでも、オヤからの只一つの贈物であるネックレスがかけてありました。

そんなドブ鼠・・・失礼。口が悪かった。猫のような暮らしが続きました。そして、ある日、俺は出会ってしまったのです。ニンゲンとかけ離れた、縦長い、気高い猫のような瞳孔を持つ、それに。
「オジサン誰?」
「俺は吸血鬼と呼ばれる種さ」
「ニンゲンじゃないの?」
「あんなクズ共と一緒にされるのは、虫唾が走るね」
「そうなの」
「そうさ」
そんな短い会話だけで、俺は興味を持ちました。吸血鬼と言う存在に。ニンゲンを屑だという、吸血鬼に。
「ねぇオジサン、俺を吸血鬼にできないの?」
「出来るぞ、けれど、ガキ。お前はガキのまま成長できない。それでもいいのか?」
「いいよ」
俺の瞳には少しの迷いもありません。

そうして俺はオヤからの贈り物である石を棄てました。
それは俺なりの決別だったのです。
”俺”から”僕”になる際の、俺への餞別。

『このお話はフィクションです。実在している人物や団体には関係ありません』ってね。
ほら、用事があるっていってたでしょ?早く行ったら?
この続き?・・・そうだな、秘密。謎があるほうが魅惑的だと思わない?


【死ねばいいと思うよ>本体/続きは気が向いたら書かせていただきますー!3番目のティアメルちゃんは難しそうなので後回しに・・・/爆/駄文をだらだらと失礼しましたー!!!/土下座】
 
 

吸血鬼になった理由(わけ)

 投稿者:ユリア・インスタン  投稿日:2009年 7月12日(日)13時51分20秒
返信・引用
  父さん、母さん…僕が吸血鬼になったこと、どう思ってる?怒ってるかな?
でも、仕方がなかったんだ……。他に宿る場所がなかったから……。

……僕の過去?聞いてどうなるのかな?でも、いいよ。話してあげる……。

僕の一族「インスタン家」は、代々吸血鬼ハンターなんだ。
だから、父さんも母さんもハンターだった。そして、僕もハンターとして色々な知識や戦い方を学んだ。因みに、お父さんは本家の次男。
僕はそれらをすぐに覚えられたんだ。全てをマスターしたのは、16歳の時。
それより少し前から、僕は一族の人達と任務に出てたんだ。父さんと母さんと一緒に任務に就いた時もあったよ。

僕には、それが幸せだった。
それが、ずっと続くと思っていた。でも…違った……。

あの日も、父さんと、母さんと任務就いているときだったんだ。
任務は簡単に遂行できたんだ。
その後家に帰って、三人で夕飯を食べていたんだよ。
その時だったね、「逃走犯」っていう奴(男)が銃を持って僕の家に突然上がりこんで来たんだ。僕達を人質にとって、僕の家に立てこもった。
そこまでは何の問題もなかったんだよ?

狂いだしたのはその後からだったんだ。
男が警察に用意させた逃走用の車に乗り込む時、
警察はここが最後のチャンス、とでも思ったのだろうか、人質の僕達が居るのに一人の警察官が銃を発砲した。
撃った警察官は腕に自信でもあったのだろうか分からないけどね。
銃声は二回した。頭でそう理解できたときには、側で父さんと母さんが血を流して倒れていたんだよ。そして、僕は銃を頭に突きつけられていた。
「お、お前らが悪いんだ!!これは、お前らが……!!」
僕は、銃を突きつけられているのに随分と冷静だった。男の口調から男が動揺しているな、と理解できたくらいにね。
警官たちも動揺しているのが何となく分かった。

「ねぇ、もうやめよ……。あなたは、こんなことになるとは思わなかったんでしょ?」
数分間、膠着状態が続いた。その沈黙を破ったのは、僕の言葉。
「うるせぇ!静かにしてろ!!」
そう言って男は、僕の頭に銃を強く押し付けた。
「お願い…、早くしないと…父さんと母さんが……。」
いつの間にか涙を流していた僕は、涙声で言った。その言葉を聞いた男は、黙ってしまった。
それを感じたとき、こういうつもりじゃなかったんだとなんとなくだけど理解したんだ。
男は数秒間何かを考えた後、僕を解放した。それを見た警察官は男を取り押さえた。

父さんと母さん、そして僕は病院へと運ばれた……。

父さんと母さんは助からなかった。
病院の待合室、警察の人たちは僕に対して謝った。もちろん、そのなかには発砲した人もいた。
それに対して僕は激怒した。
「どうして?なんで?あなたが発砲なんてしなかったら、父さんたちは死ぬことなんてなかった。」
半狂乱になって、暴れて暴れて暴れて……。そんな僕に病院の人は鎮静剤を打った。

気がついた時には、病院のベットの上で、僕は今の精神状態になっていた。それまでは一般的な「女の子」だったんだよ、僕も。
現実を受け入れた僕は、悲しみから逃れるためにそうなったんだと思うんだ。


その後は、一族の本家に引き取られたんだ。
そこで、お父さんとお母さんの話を聞いた。悪口を……。
任務以外で命を落としたのは一族の恥だと……。
その言葉は、僕に強いショックを与えた。

いままで、僕達家族を「優秀な家族」と賞賛してきた本家人たちは、手のひらを返したように僕を…父さん達を罵倒した。
こんなこと信じられなかった。信じたくなかった。本家に居るのが嫌になった…「人間」でいるのが嫌になった……。
ある日の夜、僕は本家の家から飛び出した。


僕は敵である吸血鬼を探し、そして仲間にいれてほしいと頼んだ。
その人たちは心よく僕を受け入れてくれた。
それから僕は「吸血鬼ハンター」としてではなく、「吸血鬼」として生きることになったんだ。
僕の母親には、リゼッタって言う人がなってくれた。そのひとは、僕の心の傷も癒してくれた。

数年たった後、リゼッタのもとを離れていろんなところを旅したんだ。もちろん、九龍ショックのことも知ってるよ。
今の僕がいるのは、あの人の…リゼッタのおかげなんだ。

これで、僕の話はおしまい。たいしたことなかったでしょ?


えっ?ハンターなら、逃走犯どこき簡単に撃退できたはずだって?
今の様に吸血鬼は公には知られていなかったんだよ。だから、吸血鬼ハンターという存在も世間一般では知られていなかった。……ここまでいえばわかるよね?

えっ?分からない?しょうがないなぁ。
僕たちは普段は「一般人」として生きてきた。他の人たちと同じ生活をしていた。警察から見れば僕達は「民間人」なんだよ。
その民間人が、銃も怖がらずに逃走犯を捕まえたらおかしいでしょ?だらか、撃退できなかった。……そういうわけ。理解できた?

(PL:「ユリアの心」の改訂版です。時間がたって読み直したら気に入らなかったもんだから書き直しました。お手数ですが、変更をお願いできますでしょうか?)
 

ダンピール・蛍火としての日常-3-

 投稿者:蛍火  投稿日:2009年 7月11日(土)22時59分44秒
返信・引用 編集済
  今回で終いぞ…もう疲れた。

老人と生活を共にするようになって数年の月日が流れた。
相も変わらず、朝から晩まで刃が交わる金音と老人の罵声が庭に響く。そして、夜には己の傷の手当をしながらの助言と老人の長い長い昔話が待っていた。何の変わり映えもしない日常……――それも刻一刻と終わりへと向かっていた。

いつもであるなら朝になると寝室にズゲズゲと踏み入り、日差しの苦手な己に対してなんのお構いもなくカーテンを開けに参上する老人がこの日に限って姿を現さなかった。違和感を感じるまま着替えを済ませ、手探りで居間へと足を進める。
「藤ジィ…藤ジィ?…留守か?」
ガチャガチャと朝食の支度をする音はおろか、気配すら感じられない。シーンと静まり返った古い家中を彷徨うように探し回る。結局残るは藤ジィの寝室のみとなりゆっくりと扉を開けた。相変わらず静まり返った室内を手探りで歩き回れば、ムニッと何か軟らかいものを踏んだのを感じた。それを確かめる為、その場に腰を下ろし丁度眠ったままの老人の皺くちゃな手を握った。老人の手にいつもの温かみは無くて凍えたようなひんやりとした冷たさだけを感じ、その冷たさは手だけではなく顔や頬も同じだった。

『別れとは突然やって来るもの。いつそれが来ても嘆かぬ人生をわしは送っておる。』
不意に老人の口癖を思い出した。そして、眠った老人をその場に残し、少しだけ山を下っていつも老人が頼りにしていた老夫妻の住む場所へと向かった。道しるべに鈴を付け己一人でも迷う事が無いように計らってくれていた。

事情を話し我が家へと足を運んでくれた老夫妻は嘆き悲しむよりも残された盲目の己の心配をしてくれる。老人にぬかりは無かった…悔いも心配も無いように準備万端で旅立ったようだ。知らなかったのは己だけ……。
「蛍火ちゃん…わしらの家に来るかい?その目じゃ……難儀じゃろう?」
「――山を…下りようと思う。藤ジィの事……良きに計らっては貰えんだろうか…」
老夫妻の誘いに首を緩く左右に振る。答えは始めから決まっていた…それは藤ジィも分かっていたであろう事。己の代わりにこのお節介で心優しい老人の旅立ちを見送って欲しいと深く深く頭を下げた。頭を下げたのはコレが最初で最後。老夫妻は「分かった」とだけ答え、見えない微笑みの代わりに己の頭を軟らかく撫でてくれた。

翌朝、形見とも言える愛刀と愛傘、そして僅かな金を持って山を下りた。
今思えば、老夫妻は己がダンピールであっても受け入れてくれた事と思う。楽に生きる道もあった…寧ろそれが正解だと皆が頷くだろう。だが、血に従い血に生きる事…これはダンピールも同じ。血が喚く『運命-サダメ-と戦え』と…

月は8月。猛暑が容赦なく己を襲った。傘を差していても苦手な日差しと暑さが身体を蝕む。体力が無くなれば自然と血を欲する。まだ食した事の無い人の血とはどのようなものか……欲する本能は止められない。
「お姉さん?俺と良い事しない?金は弾むよ…目隠しプレイみたいで興奮するし…ね!?こっちおいでよ。涼しい所に案内する。」
声を掛けてきたのは若そうな声のする男。迷い込んだのが商店街ではなく歓楽街である事と己の格好が幸か不幸か人を呼び寄せた。盲目である事を良い事に好き放題できると期待に胸を膨らませた哀れな男に従う。涼しさを感じた部屋は異常な程甘い香りに包まれていた。着物の袖で鼻を覆うがすぐに両手を掴まれ柔らかな布団の上で男に組み敷かれた。
「旦那…アタシの前に旦那を夢の世界に案内しようぞ…?」
男の下から声を掛け、瞳を閉じたまま僅かに口角を上げて微笑めば、興奮したような荒い吐息が吹きかかるのを感じる。太い手首を取って牙を立てれば男はたちまち快楽の世界へと身を投じる事となる。必要以上の吸血はしない…そう決めていた。
「……馳走になった。金は要らぬでな…」
口の周りについた僅かな血液をハンカチで拭い、快楽で腑抜けになった男に向かって軽い挨拶をする。室内を出て再び傘を差し歩き始める。

そんなこんなを繰り返し、やっと辿り着いたのが黄昏橋。橋の向こうから禍々しい程の気配を感じる。藤ジィの昔話を一つ一つ思い返しながら橋を渡っていった。だが、渡りきっても何処に行けば良いのか分からぬは必定。聞き慣れぬ車の音とざわめきに耳を傾け、一人の人間に話を聞こうとするが逃げられる。吸血鬼に聞けば邪険に扱われ、やっとの思いでカンパニーに行き着いた。
「中に入れて貰えぬか?――少しぐらい良かろう…真小さい。」
無断で入ろうとすれば当然門番に止められる。不意に開いてしまった瞳を門番が見たようでダンピールだという事を知られてしまえば拘束にかかるのも必定か…。正当防衛だと言わんばかりに門番や出てきた数名の鎮圧チームの面子を蹴散らし室内に入る。
「君…これを一人で?ダンピールだと聞いたけれど…ってその刀!君の!?」
コツコツと靴音が近づいてくるのを感じれば少々身構えるが、相手に戦意が無い事に構えを解く。男は己の事よりも胸元の刀に目を向け驚いたようだった。
「左様。我が師である藤次より授かりし物だが…何か?」
「やっぱり…藤ジィさんがまさか君のような子を弟子にしていたなんて驚きだよ。それより…目…見えないの?働き口は?住む場所は?」
男のペースにどんどんと乗せられ、始めの問い掛けには首を縦に振り、後は左右に振るなどのアクションを取るのが己としては精一杯であった。
「俺が上に掛け合おう。これでも調停員だから。あー…自己紹介がまだだったね…俺は卯之花蜜。よろしく……あぁぁ…よろしく。」
一方的に喋り始める彼にそろそろ困惑の表情も見え隠れして。己が盲目である事を興奮ですっかり忘れていた彼は己の手を強引に握り握手を交わして、再びヒールを鳴らして去っていった。

3日後、逗留先も教えていないのに彼から宿に電話が届き、己に何の断りも無く勝手にアパートと働き口を決めていた事は言うまでもないだろう。その働き口が偏見という厚い壁に覆われし新たな箱庭だった事は今現在知った事。文句は言わんがな――

見ず知らずの者にここまでさせてしまう藤ジィは一体何者なのか……有名なハンターで変わり者な老人である事以外未だに知らない。

ほれ…これで満足だろう?もう帰られよ…最早話す事は無い。

(PL:蜜君は我が二役目の候補です!いつ登場になるかは分かりませんorz取りあえずこれで蛍火の話は終ります。長々とお目汚し失礼しました/深礼)
 

ダンピール・蛍火としての日常-2-

 投稿者:蛍火  投稿日:2009年 7月10日(金)16時28分26秒
返信・引用 編集済
  …気が向いた。続きが聞きたいならそこに座るが良かろう。

藤次というしゃがれ声の年寄りに拾われ半年という月日が流れたらしいある日、朝早くから急に居間へと呼び出しを食らった。
「蛍火…そこへ座って。お前さんに授けたい物があるんじゃ。コレを…わしからお前に…」
言われた通り腰を下ろした己に藤ジィは一本の短刀を差し出し、両手を広げた己の手の上に優しく乗せた。
「コレは…?木棒…いや…もっと…重い…。それに…鈴の音――」
視界の無い己からは当然と言える問い掛けをポツリと返す。手中にある白鞘に納まりし短刀を手でなぞり、揺らすたびにチリンチリンと耳に響く鈴の音に首を傾げるばかり。
「短刀じゃよ…わしが昔使っておった。鈴はお前さんが刀を落としてもすぐに見つけられるようにわしが後付した。蛍火、すまぬ…わしはただの人間じゃ。お前さんをずっと護ってやる事は出来ぬでな。いつか別れはやって来ようぞ――…じゃが、その前に生きる術を身に付けよ。我が身を護る術をその身に刻み込まれよ…」
老人の言葉に耳を傾ける。いつものような穏やかな声ではなかった。何か覚悟を決めたような強くて低い声。
「生きる…術……護る…術――どうやって…?」
相手は老人で人間で時の速さが止められない事ぐらい理解していた。いつか訪れるであろう悲しき別れも。しかし、その時は共に滅びる事を密かに考えていた己にとっては予想だにしない言葉であった。歴史の渦に何もかも奪われた己に生きる術など…元より護る価値など存在しない。眉間に皺を寄せたまま静かに問い掛ける。
「蛍火…お前さんには特別な力があるでな。この手に…この身体に流れる血は全てお前さんを護る為の血ぞ。我を感じよ…恐れる事は無いでな」
老人が口にする『特別な力』とは以前に聞いていた吸血鬼としての力である事は考えるまでもなく察しがついた。己の手を握るしわくちゃの手がいつもより熱く感じる。いや、熱いのは手ではなく己の鼓動。身体の奥底で眠る本能を感じた瞬間だった。

翌日から庭先では毎日のように朝から晩まで刃の交わる金音が響いた。そこで感じるのは盲目である事など一切考慮しない、殺意と無で固められた老人の気配のみ。それ以外に気を取られようものなら確実に殺られる殺伐とした…まさに修羅場。
「立て!立たんかッ!!今の貴様ならば奴ら相手に一分…いや…十秒も持たぬ。わしが知らぬと思うてか?…お前さんの中に住む獣を――…出さぬならそこで朽ち果てるが良いわ!」
無数に浴びせられる罵声と身体の骨が軋む痛み。地面に這いつくばって歯を食い縛ると生暖かい液が口に纏わり付いた。自分の身体がどうなっているのか分からない、無論老人の身体も……――『見えない』という恐怖が抜けるまでそれは幾日も続いていく。

般若と仏の二つの面を被ったようなその老人は毎夜毎夜目の見えぬ己の代わりに傷の手当をしてくれた。決して謝罪などせず、発するのは助言のみ。その助言を聞いてはまた修羅場に戻るの繰り返し。やがて恐れは消え、己に与えられし能力を感じられるようになっても尚その修羅の箱庭から出る事は無かった――あの日が来るまでは…


老人が只者ではない事を感じたのはこの頃だ…
正体を知ったのはもう少し先の話でな…――もう帰られよ…話は今度ゆるりとな。

(PL:『ダンピール・蛍火としての日常』の続編です。一応三部作を予定中。長ったらしくてすみません;そしてやはり体力も文才も皆無ですみませんorz)
 

ダンピール・蛍火としての日常

 投稿者:蛍火  投稿日:2009年 7月 9日(木)17時33分52秒
返信・引用 編集済
  気付いた時には既に其処に居た。だが、其処が何処であるのか知らない。
感じるのは瞳が燃えるように熱くて痛い事…ただそれだけ。

「おや?気が付いたかい、お嬢ちゃん。何か欲しい物は?」聞き覚えの無いしゃがれ声と問い掛けが耳の奥を通り抜ける。
「――血……赤いモノ…」
己が口にしている『血』とはどんなものなのか分からない。何故欲するのかも――ただ、どうしようもない渇きが体中を支配し駆け巡る。
「お嬢ちゃんまさか…!いや…今はよそう。お嬢ちゃんの欲しい物はあげられないんじゃが…代わりにこれを――わしが作ったプルーンジュースじゃ。美味いぞ、ほれ…お飲み。」
己の返答を聞いた人間の反応は僅かな恐怖と多大な哀れみを感じさせた。しゃがれ声の老人はその皺くちゃまみれの手で己の手を取り、グラスを持たせ口元まで運んでくれた。甘酸っぱいひんやりとした感触が喉を通る。暫くすると不思議と体中の渇きが引いた。

「お嬢ちゃん、名前や歳は言えるかい?」
「名前…歳……やっ…分からない…怖い――」
名前や歳など当たり前のように存在するはずのものが分からない。思い出そうとすればするほど脳裏を過ぎるのは真っ赤な光景。そして暗闇。恐怖と絶望が一身に身体に降り注ぐ感覚に体中が震える。そんな異常な光景を見ていたであろう老人は「お眠り…」と一言囁いて気配を消した。それからはまた暫く暗い闇の中へと落ちた。

あれからどれぐらいの月日が流れたのだろうか。時計を見る事はおろか夜であるのか朝であるのかの判別も付かない暗闇の中で生活をした。そしてついに、グルグル巻きに瞳を覆っていた布が老人の手によってスルリと取られる。
「お嬢ちゃん…ゆっくりと瞳を開けてごらん。今は夜明けだ、分かるかい?」
老人の合図で長い時間閉じていた重たい瞳をゆるりと開く。血の様に赤く片方だけ細長い瞳孔は僅かな光だけをその奥に通した。
「やはりのぉ…。お嬢ちゃんはダンピールの子に間違いないじゃろう。大方、吸血鬼狩りの騒動に巻き込まれたか……気の毒じゃった。」
老人の視線を暫し感じれば、老人は小さな溜息をついた後に事実を己に告げた。始めに老人から感じた僅かな恐怖は最早感じられない。今、老人から感じるのは深い哀れみと頭を撫でる手の温もりだけ。
「――ダン…ピール…?吸血…鬼…狩り…?」
老人が何を言っているのか理解に苦しんだ己はポツリと問い掛けるように囁いた。思い出そうとした訳ではないのに酷い頭痛がする。相変わらず脳裏をチラつく赤と黒の景色に酷く顔を顰め頭を抱える。
「その話は追々していく事にしよう…今はいい。それよりも…名前じゃ。わしの名は藤次。お嬢ちゃんは…そうじゃのぉ――…『蛍火』…蛍火じゃ!蛍の光のように淡く優しい光を持っておるでな。記憶が戻るまで…いや…これからは『蛍火』としてわしが面倒見ようぞ。頼む…蛍火。」
混乱で瞳孔の開ききった己の瞳をソッと手で覆う老人の気配を感じた。それに合わせ瞳を閉じて落ち着きを取り戻していく己の精神。まるで仲間が出来たように嬉しそうな声をして皺くちゃの手で己の手を握る老人に何故か逆らう事が出来なかった。
「藤次…さん……アタシが…蛍火…」

これがアタシという存在が一度死んで生き返った日の全てぞ…
その続きはまた気が向いたら話す。今は疲れた――

(PL:新参者の癖して取りあえず娘の裏話をば…。藤次お爺ちゃん…何だかタダのロリコン変態親父っぽいですが…全ては親父としての愛情です。時にスパルタのように厳しく時に蜂蜜のように甘甘なオッサンに育てられ、鍛えられました。続きはまた後日投稿という形で…すみません;文才も体力も無くてorz)
 

ある日の日記-3-

 投稿者:アイリス・クロース  投稿日:2009年 3月18日(水)00時58分48秒
返信・引用 編集済
  **年**月**日**曜日曇り。

先日書いた続きを書くわね。


特区に着いて私が一番最初にしたこと。
それは、店舗探し。

私はあなたと過ごした1年の間で料理が好きになっていた。
この料理でお店を開いてみたい、そう私は思ったの。

特区の公園にほどちかい場所で建物は古いけど、内装はそこそこ悪くない場所を見つけた。
私は一人で掃除をした。補修作業は業者に頼んでやってもらい、水道、ガスを全部ひいてもらって、私好みの内装にしたの。

それからほどなくして和風料亭【曄織(ハナオリ)】はオープンしたわ。
オープンするに当たって、従業員を募集したわ。

今じゃ、そこそこ有名な料亭になっちゃったけどね。

それに、私暗殺家業もしているの。依頼があればどんなことでもするわ。
勿論、それに見合った金額を頂くけどね。


・・・・と、話が随分長くなっちゃったわ。
ごめんなさいね。

それと、今はもう大丈夫よ。
祖母の死からもう立ち直っているわ。

母は、科学者たちにモルモットにされた挙句死んでいったの。
私は科学者を全員憎んでいるわ。

さて、これで最後。

「人間なんて嫌いだわ」

最後まで読んでくださってありがとう。
それからつまらなかったでしょう?

ふふふ、隠さなくても平気よ?
きっと、両親が殺されていなければ私は吸血鬼に成る事はなかったわ。
きっと、ね?

(PL:アイリス姐さんが吸血鬼になるに至った理由を日記風に書いてみました。アイリスは、時々日記をつけてるといいな/←/なんだか最後まで纏まりかんがありませんが申し訳ないです。私の力量不足です。では、お目汚し失礼しました。)
 

ある日の日記-2-

 投稿者:アイリス・クロース  投稿日:2009年 3月18日(水)00時26分22秒
返信・引用
  **年**月**日**曜日雨。

先日書いた、私の幼き日の出来事の続きを書きます。
これで、全部書けたら良いのだけれど…。


私は、小さな胸を押えました。そうでもしないと、辛かったのです。
いつの間にか私は気を失っていました。

目を覚ますと、祖母が心配そうな眼差しで私を見ています。
「おはよう、お祖母ちゃん」と言うと祖母は私を抱き締めました。

私が、吸血鬼になって20年の月日が経ったある日、死に際の祖母からこの「特区」について聞かされました。

祖母が死んで、失意のどん底にいた私は、祖母の遺言でもある「特区に行って」という願いを叶えようと思い、歩いて特区に向かっていた。場所は、商店で地図を買って道中確かめながら歩いていた。
そんな時に、あなた(夫)に出逢ったの。

あなた(夫)は言ったわ。
「何故、そんなに落ち込んでいるの?」って。そしてこうも言ってくれたわね。
「住む場所がないんなら、僕の家に来ないかい?」と。
あの時、どんなに救われた気持ちになったか…。これを見ているあなたにはきっと分からないでしょうね。

それから、私はあなた(夫)と結婚し、幸せな家庭生活が続くはずだった。…そう、はずだったの。でも半年過ぎればあなたと私の関係は悪化していく一方だった。私とあなたとではあわなかったのよ。それに、私はあなたは生理的に受け付けないタイプの人だった。だから、辛く当たってしまった。今でもその事はとても後悔しているわ。

あなたとの結婚生活も1年が過ぎようとした時に、あなたは「離婚」の話を持ち出してきたわね。私はすんなりその話に乗って、私たちは離婚したわ。

それは私が、人間で言う23歳の時。

あなたの家から特区は近かったみたいで、私は特区へ歩いていった。これ以上一緒にいる理由もなかったし。


眠くなってきたわ。
この続きはまた今度書くわね。
おやすみなさい。
 

ある日の日記-1-

 投稿者:アイリス・クロース  投稿日:2009年 3月17日(火)23時45分29秒
返信・引用
  **年**月**日**曜日雨。

これは、以前夫に聞かれたことを思い出したので書いてみます。
最後まで全部書けるかしら・・・。
途中で行き詰ったら、ごめんなさい、って私誰に謝ってるんだろ・・。

それは、私がまだ人間だった頃の4歳の誕生日に起こりました。
私の誕生日には、父と母と祖母が祝ってくれました。
その誕生会もあっけなく終わりを告げました。

・・・・私がトイレに行っている間にソレは起きていたのです。

トイレから戻ってくると、部屋一面が血の海でした。
白衣を着た人間が、母を庇った父を鋭い刃で刺していました。
私は声を上げるのも忘れてその光景に見入っていました。
私の目からは一筋の涙が零れ落ちていました。

父が声にならない声をあげて事切れた事を今でもはっきり覚えています。
母は、白衣の人間たちに連れて行かれました。
母は、私に「助けて」と目で訴えていました。
でも、私はまだ4歳になったばかり。そんな子供に出来ることなんてたかがしれています。
母は抵抗虚しく、白衣の人たちに連れて行かれました。

私は吸血鬼だった、祖母に助けられ生き延びました。
祖母が吸血鬼だという事は以前から知っていました。
そんな祖母に私はお願いしたのです。「私も吸血鬼になりたい」、と。
私は4歳で悟ったのです。「人間は薄汚れた生き物」だということを。それに人間にはもううんざりしていました。その時、祖母が「老牙ニザリ」の血統だということを知りました。
祖母は、一度言い出したら聞かない私を知っていましたから「分かったよ」と優しく微笑みながら言いました。
そして私は祖母が私の為に用意してくれた、祖母の血が入った小瓶を飲み干しました。



……、ごめんなさい。続きはまた後日書くわ。
今日はこれ以上は辛すぎてかけないわ。
 

一枚の写真/後編

 投稿者:海堂 泰生  投稿日:2008年10月28日(火)14時03分47秒
返信・引用
  「さようなら」と彼女は言った。「さようなら、愛している」と。嘘はつかない人だった。

***
「海堂君、永遠を生きられる「薬」が手に入るかも知れないんです」
眉唾物のその話を信じる気になったのは、その頃の海堂がわらをも掴みたい程に行き詰まっていたからか。否、矢張りその情報の主が鎌田だったからだろう。
常に無く真顔でそう言う鎌田の顔を海堂はボンヤリと焦点の合わない目で見返す。疎らに生えた無精髭、目の下の濃い隈を見て、鎌田は、らしくないと心中で呟いた。全く以てらしくない。
妻が病床に伏してからこのかたの海堂は目も当てられない程の零落振りだと専らの噂だった。医者の世界は意外と狭い。その世界から離れて等しい、否最初から所属すらしなかった鎌田にも、同じ医学部で学んだ同期達が囁く「海堂はもう駄目らしい」と言う噂は嫌でも耳に入ってきた。「新進気鋭の外科医もああなってしまったらもう駄目だ」「人間どこでどう転ぶか分からないものだな」
病に倒れた妻の命を救うためになりふり構わず私財を投げ捨てその約束された地位をも捨てる夫、ある意味においては美談かもしれない。しかし、職業人としてはそれは紛れもなく失格だと言わざるをえないだろう。特にその職が人の命を預かるものとあっては尚のことである。
らしくない。何度目かの苦々しい呟きを胸の内で漏らして鎌田は口を開いた。
「ホラホラ、海堂君はツッコミでしょ?ツッコミなら、ツッコミらしくしゃきっとしてくれないと、僕のボケも冴えないってものですよぉ。ちょっと斜に構えて上から目線で、人を小馬鹿にするのが海堂君でしょうが」
「…俺が上から見下すのは鎌田、お前だけだ。それに俺はお前を小馬鹿にしているわけじゃない。心底馬鹿にしている」
鎌田は満面の笑みを浮かべた。
「そうそう、それでこそ海堂君ってものですよ」

***
従姉妹の命を救いたい。そう願う気持ちは嘘ではない。だが、果たして消え往く命を無理矢理に繋ぎ止めるのが正しいと言えるだろうか。医学を学びながら、結局その疑問に対する答えを出せずに、資格を取るだけ取って医学の道を離れた。その鎌田が海堂に吸血鬼となり永遠の命を得ると言う禁じ手を伝えたのは、その頃の海堂が目も当てられなかったからに他ならなかった。
どうやって「それ」を手に入れたかは、海堂に伝えるつもりもなかったし、伝える必要もないと思った。ただ「闇オークションで競り落としたんですよぅ」と言う間抜けな嘘を、彼は疑おうともしなかった。

***
彼女の永遠の命を望んだ海堂は、その永遠を彼女独りに孤独に生きさせる事をよしとはせず、自らその「薬」を半分干した。

***
「命はそんなものじゃないでしょう?」
「俺はどんな形でも君に生きていて欲しかった」
「どんなに短くても、私は限りある時を、その時を大事に貴方と生きたかったの」
不毛な言い争いは半年続き、そして、唐突に終わった。
「さようなら。愛しているわ、貴方だけを」
その言葉を最期に彼女は去った。海堂も追わなかった。恐らく疲れていたのだろう。二人ともどうしようもなく疲れていたのだと思う。

***
インターフォンの音がする。耳障りなその音を何処か遠くで捉えながらも、厚く遮光カーテンを引いた独りの部屋で、海堂は動く事をしなかった。
シンクからは腐った肉のすえた臭いがする。無数のビールの空き缶と、山と積もり灰皿で雪崩を起こした吸殻。暗い部屋の中、妙に渇く喉の焼け付く痛みだけがリアルに海堂を苛む。
そうして幾時間過ぎたか、なり止む事のないインターフォンの音に漸く重い腰を上げる。異臭に近所の住人が警察を呼んだのかもしれない。それすらどうでもいい事だ。覗き穴から外を伺う事すらせずに、ドアを開く。時間の感覚を失った瞳に、外の光は眩しく思わずたたらを踏んで手で顔を守る。その胸ぐらを捕まれ、部屋の中に押し倒されてやっと、腹の上に座る来訪者の正体に気付いた。
渾身の力で殴られる。払いのけ、突き飛ばすことも出来たのかもしれない。飢えてすらなお、人にあらざる者となった海堂にはその力が残っていた――――が。憎んでいる、と言っても過言ではない程の表情で拳を振るう鎌田を前に海堂は僅かな抵抗すらしなかった。
殴るだけ殴って肩で息を切らしながら鎌田は海堂の隣に転げ落ちるように仰向けに寝そべった。
「これにあの人が並んだら完璧川の字ですね。懐かしい」
「…何しに来た」
「殴りにに決まってるでしょうが」
「…帰れ」
「嫌です」
「帰れ」
「お断わりします」
「出てってくれ」
「出てけって言われて僕が出ていった試しがありますか?」
諦めて口をつぐむ。口の中を切ったのだろうか、流れ込む自分の血さえ、舌が痺れる程甘い。
「…血が欲しいんでしょ、あげましょうか?」
心を読んだかのような鎌田の言葉に思わずぎょっとして顔だけ隣へ向ける。其処に取って付けたような満面の笑みを見て、海堂は吐き捨てるように返す。
「お前の血だけは飲まん。馬鹿が感染る」
「ひっどいなぁ。そう言うと思って血の気の多そうな食べ物持ってきました」
全く意に介する風無く上半身を起こして、鎌田は傍らに投げ出された袋を拾う。タッパーに詰め込まれたそれは、レバニラか。…レバニラだ。
「…………ベタだな」
「はい、あーん」
抵抗するのも馬鹿らしく、寝転がったままで鎌田がご丁寧にも持ってきた割り箸で口元に運ぶレバーを咀嚼し、そして目を見開いた。
「残念ながら、スッポンの生き血は手に入りませんでした」
鎌田の軽口も耳に入らない。――――彼女が鎌田を選んだのも道理と言えなくもない。海堂と彼女が共に過ごした同じだけの時間をまた鎌田も共有している。不思議と二人に対する憎しみは昇ってこない。何処かホッとしている自分を海堂は冷静に感じていた。憎さも失望もない、ただ哀しい、哀し―――――
「あーッ!!何やってるんですか海堂さん」
海堂の感傷を破る叫び声。鎌田は、海堂の左を掴み薬指から指輪を抜こうと手を伸ばした。銀の指輪は肉を焼き、白骨が覗くそばから吸血鬼の血がそれを拒んで肉芽を作り、また銀が溶かしを繰り返した。左手の薬指は無残に爛れ、それでも外せなかった指輪が食い込んでいる。
「よせっ!」
思わず渾身の力で以て鎌田を突き飛ばす。タッパーの中身を床にぶちまけながら、鎌田の体は壁まで飛んだ。
「ッてぇ~、………馬鹿ですかあなたは」
何度か咳き込み、強打した頭に手をやりながら鎌田は口を開く。
「言っときますけど、僕の好みは巨乳です」
場違いな主張。
「……そしてあの人もあなただけを愛している、だそうですよ」
瞠目し、鎌田を突き倒すために上体を起こしたままで固まる海堂に、よろよろと近付いて指輪を抜く。それを彼の胸にドンと押し付けて。
「チェーンにでも通して、胸から下げる。服の上からだったら、焼けることもないでしょ。………全く、馬鹿ですかあなたは」
「…………そうかもしれん」
海堂は初めて泣いた。声を上げることは出来なかったが、涙は後から後から頬を伝い、静かに泣きじゃくった。そんな海堂を尻目に鎌田は床に散らばるレバニラの残骸をタッパーに集めながら相変わらず間延びした声で「馬鹿ですか」を繰り返した。

***
特区へ移り住む手筈を整えたのも、医局へ離職届けを出したのも鎌田だった。ミニクーパーの助手席に座り、黄昏橋を渡りながら運転する鎌田とどんな話をしたのかは覚えていない。多分、いつものくだらない掛け合いだったのだろう。

***
旧市街地の片隅にある古びたアパートの一室で、一枚の写真を手に取る。
口元にだけ薄い笑みを乗せて片手に煙草を挟んだ白衣姿の己と、はにかんだような控え目な笑みを見せる彼女との間に、何処か嘘臭い満面の笑みを浮かべた鎌田。
そしてまた、引き出しの奥深くにただ一枚残ったその写真を眠らせる。

***エピローグ
窓を全開にしたミニクーパーは、快調に海辺の道を走る。
「幸せだったの。この上なく幸せだった。でも永遠に続くなんて、誰に分かるの?」
あの人が言った言葉を海堂に伝える必要はないと思ったし、これからも伝える事はないだろう。
あの人との永遠を望んだ海堂と、永遠に怯えたあの人。そして、俺は―――。
バックミラーに括り付けられた小瓶に入った赤い液体は、酸化することも凝固することもなく揺れている。ミラーに映る自分の笑顔は評判通り嘘臭く、しかも泣き笑いだった。(おしまい)

(PL:お粗末さまでした。鎌田のモデルは昔ちょっとだけ動かしてた高校生の息子です。大人になった彼を書けてよかった←/自己満万歳/お目汚し失礼しました/脱兎)
 

一枚の写真

 投稿者:海堂 泰生  投稿日:2008年10月27日(月)21時53分54秒
返信・引用
  今も捨てられないでいる写真が一枚手元に残っている。
そもそも写真に残すという行為自体が余り好きではなく、10数年続いた結婚生活の中で、二人を撮った写真は、薄いアルバム一冊にも満たなかったのだが、その全てを処分してしまった今もその一枚だけは何故だか机の奥深くに眠っている。

***
「海堂君は、彼女とか作らないんですかぁ」
人の神経を逆撫ですると評判の間延びした口調で鎌田は隣の男、海堂に問い掛けた。
海堂、鎌田で学籍番号が並んでおり、入学当初の席が前後であったという分かりやすい理由で、何となく親しくなった。よくある話だ。そして週に二三度は飲みに行ったり、試験の度にノートを貸したり貸したり、レポートを手伝ったりする様になった今も、取って付けたような敬語と、よそよそしい呼び方を変えようとはしない友人、鎌田を海堂は軽く睨み付けながら答えた。
「とかって何だ、とかって。それよりも、彼女居ないのか?から始まらねえか?会話として」
「いやだなぁ。彼女が居たら、こんな所で僕とエロビデオ観てたりしませんよ。」
こんな所、とは海堂の自室である。尤な答えだ。
「言わせて貰えば、そのビデオはお前が勝手に持ち込んだもので、観てるのもお前一人だ。ヴォリューム下げろ」
パソコンに向かい、解剖学のレポートを打ち込みながら言い返す。因みに班が同じ鎌田も明日がレポート提出締め切りの筈、そもそもレポート纏めの名目で集まる事にしたのであった。
「それはそうと、僕、彼女が出来ました。適当な女の子をもう一人見繕いますから今週末ダブルデートしましょうね」
腹ばいになって、足をブラブラさせながら食い入るようにテレビを見つめたまま、何気ない調子で言う鎌田に、海堂は思わず、意味不明の文字列をパソコンのスクリーン上に並べる。
「…………ハァ?何でお前ここにいんの?」
鎌田の先程の台詞をそのまま返す。
「何言ってるんですか、海堂君が書いたレポートをコピーアンドペーストするために決まってるじゃないですか。てなわけで早く仕上げて痛たたたた何するんですか、痛いじゃないですか」
無言で椅子から飛び降りて鎌田の背に勢いを付けて着地し、額に両手を当てて思い切り反らす。死ねッ!と吐き捨てる海堂に向かい、海老反り状態にも関わらず相変わらず間延びした声で鎌田は答えた。
「駄目ですよぉ、医学生とあろう者がそんなこといっちゃ。今週末空けといて下さいね」

***
何だかんだ言って鎌田の思い通りに物事が進む気がする。次の土曜日、海堂は苛々と煙草をふかしながら駅前に立っていた。せめてもの救いは、コピペがばれて鎌田だけ再提出になった事だ。ざまあみろ、心中でそう呟いたその時に声が掛かった。
「何ニヤニヤしてるんですかぁ。気持ち悪い」
耳慣れたその声に、思い切り目元を尖らせて顔を向ける。視線の先には鎌田と…その彼女――――巨乳だ。EそれともFだろうか。そういえば、先日コイツが持ち込んだAVも「爆乳ティーチャー☆放課後の個人授業」なるものだった。コイツは巨乳好きか。
「ちょっと、海堂君。人の彼女をそんな怖い顔で視姦しないでくれます?」
間延びした声が腹立たしい事この上無い。言い返そうと口を開いた海堂の耳にケタケタと笑い声を上げるその「彼女」とやらの笑い声が響く。鎌田とは根本的に趣味が合わない。勿論鎌田が見繕ってくると言う女にそう期待していたわけではないが、海堂は既にこのダブルデートにうんざりしはじめていた。
「海堂君には、こっち。はい、挨拶挨拶」
「彼女」と逆側、鎌田を挟むように立つ少女は微にゅ…否、「彼女」と対照的に困った様な小さな笑みを浮かべていた。

***
それから何度のデートを重ねただろうか。最初は4人で、そうしていつしか3人に……なんでだ。
鎌田は嘘臭い所がイヤと3ヶ月に満たず「彼女」に振られた。想定内の出来事だったが、想定外だったのは、鎌田が見繕ってきた女の子――今や海堂の彼女となったその女の子が、実は鎌田の従姉妹だった事だ。クリスマス、誕生日、世に言う恋人達のビッグイベントは全て3人で過ごした。なんでだ。
「これでいいのか?」
一度だけ、海堂は彼女に尋ねた事がある。
「二人で泰生を取り合っているのよ」
小さく微笑んで言った彼女に、これでいいのだと海堂は諦めた。彼女は、その控え目な性格と裏腹に嫌な事は嫌、駄目な物は駄目とはっきり口にする女性だった。
ままごとの様な同棲を経て―――実習が終わると彼女が3人分の夕食を作って待ち、朝家を出る時には、寝起きの悪い鎌田を2人で蹴り起こす―――卒業と同時に結婚。仲人は鎌田の父に頼んだ。友人代表は海堂と同じ部活の南に頼んだ。鎌田は口を尖らせながら「全く海堂君は素直じゃないんだからぁ」と相変わらず間延びした口調で文句を言いながらガツガツと披露宴の食事を貪り食っていた。

***
大学病院の医局に進んだ海堂、医師免許を取りながら「勿体ない」とわけの分からない理由で定職に就かなかった鎌田。生活がすれ違うにつれ、自然と疎遠になるのは道理だが、それでも結婚記念日や誕生日、クリスマスの度に「ただいまぁ」と間延びした声で訪ねてくる鎌田を疎ましく思った事はない。
そんな結婚生活は10数年続いた後、突然終わりを告げる事となる。

(PL:反則臭く前編後編に分けます。お目汚し、しばしご容赦ください(深礼))
 

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